先日の合宿で参段の審査を受けて昇段されたT.N.さんの審査用小論文を、許可を得て掲載します。(22/10/30更新)


「合気道とは」


 「合気道をやっている」と話をすると、大抵、「合気道ってどういうものですか」と尋ねられます。 その場合、一般的なイメージの通り、「護身術としてのイメージがありますね。」と受け流すのですが、しかし、本心としては、合気道を一言で説明するのは、難しいと思っています。 自分が普段稽古している内容、稽古に向き合っている姿勢が、スポーツ競技としての認知度があり、勝ち負けがはっきりしている剣道、柔道などとは異なるためです。

 では、私が思う合気道とは何か。自分にとって合気道とは何なのか。その答えは護身術ではなく、生き方を学ぶ場所、手段であるといえます。 私は、合気道の稽古を通じ、人、物事との向き合いかたをずっと学んできた気がしているのです。

 合気道の門を叩いた時、強くなりたいとは思いましたが、それは相手を傷つけ、倒すための強さではない。 弱い心を抱えている自分が強くあるための手段、道筋を探すためのものでした。身体を動かすことができ、自分を強くすることができるものとして、合気道の門を叩いたのです。

 合気道は、稽古の上では相手の動きと力の加減を感じ取り、相手に合わせて自分が動く。 そして、相手を倒すことが目的ではなく、自分を鍛えることが目的。

 思想の上では、全てと和合することを至上とし、対面する相手と向き合い、調和することで日常を得ようとするものであると理解しています。 合気道を学んでいく過程で、『合気とは、和合の形であり、動く禊である』という言葉を知った時、なんとなく、腑に落ちるものを感じました。 それから、思うように動かない身体と向き合い続け、少しずつ、身体の遣い方、動かし方を学びながらここまで来ました。

 合気道は、なぜ、今も廃れずにあり続けるのでしょうか。私は、その答えが「合気」にあり、「道」にあると理解しています。

 「合気道」の「合気」とは、端的に言えば相手と呼吸を合わせること。相手の動きを見て、「あたり」を感じ取り、それに合わせて動き、 それによって相手の棘を無力化、和合すること。 そうすることで、『受け身』ではなく、『攻め』の姿勢を保つ。

「道」は、その手段であり、過去から今までいろいろな方々によって積み重ねられ、研鑽されてきた身体の遣い方や思想であり、哲学。 その思想があるからこそ、今も合気道が存在し続けることができる。

 そして、合気道の門を叩いた人は、その身体の遣い方と思想に触れ、学び続けることで、日常における人との向き合いかた、 接し方を学ぶことができ、人として成長することができる。また、稽古において、自分が投げることではなく、投げられ続けることで、 日々の雑念や迷いを削ぎ落とすことができると思っているのです。 私はこれこそが「動く禊」と言われる由縁だと思うのです。だからこそ、合気道は綿々と続き、今日まで続いてきたのだと思います。 合気道を続けている人それぞれの想いとは関係なく。

 そのような合気道と出会い、数十年続けてきた稽古をつうじて、私は体術のみではなく、人との向き合いかたを学び続けてきました。 結果、向き合う相手を尊重し、「ありがとうございます」という感謝の気持ちを持ち続けることこそ、合気道の根源であり、基本であると今、理解しているのです。 そして、人として、より良くあろうと努めています。

 合気道の稽古は、本当に果てしない。わかったつもりでいてもすぐ、先が見えなくなります。 できているつもりでいても、細かい身体の使い方がなっておらず、稽古をするたび、自分に足らないものが浮き彫りになります。 「あたりを見る」「腰を入れる」わからないモノだらけです。だからこそ、自分が成長できるきっかけがまだ存在することがとても嬉しく、合気道の稽古が愉しいと思います。

私にとって合気道の高段位の人とは、より、精神的に強く、安定している人。対面している相手とぶつかることなく、 かと言って自分が引くのでもなく、しっかりと向き合うことができる人であり、言葉ではなく、模範となる行動で人となりを示すことができる人であると思っています。 少なくとも、私が今まで出会った方々はそうでした。

 合気道の日々の稽古は、自分の弱さの確認をし、向き合った相手とより良い関係を築き、心地よく日々を過ごす生き方の軸になるはずです。 その稽古を通じ、自分に不足しているものを徐々に埋めていき、より愉しい日々を過ごしていきたいと思うのです。

 「自分の合気道とはなにか。」を自問した時、腕力としての強さではなく、技の動きに精通することにより、 自分の精神を鍛え上げ、向き合った人々とぶつかることなく、心地よい日々を過ごすための道であると言うことができると思うのです。

 私は、そのような合気道を学ぶきっかけを得られたことに、本当に感謝しています。 そして、これからも合気道の精神、思想を自分の生き方の軸に据えて、より良い人であろうと努めたいと思うのです。


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